支部長よりごあいさつ


阿曽弘具

21世紀を目前にした今年2000年、伝統ある情報処理学会東北支部の支部長を 務めさせて頂くことになり、学会活動に貢献する決意を新たにしています。

最近、世上ではIT革命が叫ばれています。ITとは Information Technology、 すなわち、情報技術ですが、Technologyは工学を意味し、情報工学でもあるわけです。 アメリカでは、ACM(Association for Computing Machinery)という名に代表される ように、計算機を中心に据えた形で情報処理を考えてきたように思われます。 理論分野でさえ、Theoretical Computer Science(理論情報科学)といってきました。 それが、計算機ネットワーク技術の発展に伴い、計算機というハードウェア中心から 情報自体を中心に据えた考えに変わってきたことを意味するのではないかと 考えています。一方、日本では、早くから「情報の処理」に着目し、 関連する分野を情報工学、情報科学といってきました。情報自体を中心に据えた 情報学も古くから提唱されています。情報の抽出・表現・処理法・処理の原理に 注目して展開されてきたといえます。この意味では、革命ではないのです。 しかし、別な意味ではやはり革命なのでしょう。

インターネットという語に集約されるように、情報通信は身近なものになり、 数値計算以外の分野での情報の処理が当たり前になってきました。 情報処理が計算機でどのように行なわれているかを考えることなく、また、その動作 原理を知る必要もなく、マウスを操りキーボードを叩いて情報処理できるように なってきたことが、パソコン利用の大衆化をもたらしました。 ここには利用者サイドにたった膨大なアプリケーションソフトウェアの発展が あります。計算機をどう利用するかという視点ではなく、情報をどう処理したいか という視点で計算機が活用されています。情報処理、情報通信の大衆化が 現在のIT革命の本質だと思います。

本学会は、このような発展に多くの寄与をしてきましたが、 これからの情報化社会を形作る役割を負っていることを自覚し、 インフラストラクチャ構成の担い手として活動していくことが求められています。 情報のグローバル化に伴い、情報の利用に関わる倫理やセキュリティも大きな課題に なっています。現状への深い洞察とそれから生まれる先見の明をもって、 21世紀に向けてさらに飛躍することをめざしていきましょう。

阿曽 弘具@東北大学大学院工学研究科
aso@aso.ecei.tohoku.ac.jp