講演内容:
脳の記憶方式は、現在のコンピュータで、用いられているアドレス方式とは全く異なる方式
と考えられる。学習や経験によって新しい神経回路網を作り、脳内に新しい情報表現を創り出
す機能である。それは、神経回路のダイナミックスをアルゴリズムとして神経回路のニューロ
ン間の結合の重み(シナプス荷重)の空間に外界の時空間情報を写し取ることによって、内部
表現が獲得されるというものである。ヘブ(1949)は「送り手の細胞(入力細胞)がスパ
イクを送ったとき、シナプスを介してそれを受け取った細胞(出力細胞)が発火すればそのシ
ナプス結合は強化される」という仮説を提案し、脳で実際用いられていることが検証されつつ
ある。海馬では外界の時空間の出来事を文脈として一時的に記憶するため時空間学習則が有効
に働いている。この学習則は入力細胞間の同期的発火とその時間的荷重特質に基づいて結合強
度を変化させる多細胞間の学習則である。
なお、本講演ではモデルによる合成的手法によって、この学習則が高い文脈分離機能を持つこ
とを示し、またこの学習則を支持する海馬での生理実験データの紹介がなされた。